こんにちは、妹です。8月下旬に買ったバジルが元気に育っているのが嬉しいです。
ところで、最近姉が始めた「音大生って何してるの?」シリーズ。
私ものってみようと思いまして、第2弾の今回はドイツの音大の「オーケストラプロジェクト」についてご紹介します。
オーケストラプロジェクト in ドイツ音大って何?
オーケストラプロジェクトというのは、オーケストラで使われる楽器を専攻する人は誰でも取らないといけないオーケストラの授業のことです。(オーケストラの授業を取らないピアノ専攻の人は代わりに歌の授業を取ります。)
1回につき3時間続くプローベ(合わせ練習のこと)を1日に2回(計6時間)こなすのが場合によっては2週間ほど続く、なかなかハードな授業です。
ただ1年を通してずっとあるのではなく、例えば4月に1度あり、その次は10月に1度、12月にもまた1度、など不定期に行われます。
人によって参加する回も異なり、例えばAさんは5月も参加したし10月も参加したけど、Bさんはこのゼメスター(学期)では12月に一回しか参加していない、ということもあります。
大学に入学したての人から卒業間近の人まで、学年・年齢関係なくオケの楽器専攻の人なら全員が参加する一大イベント、という感じです。
オケプロを取りまとめる責任者の存在
誰がどのオーケストラプロジェクトに参加するかは、オーケストラプロジェクトをすべて取りまとめる責任者が決定します。
この責任者も学生の中から立候補した人から選ばれますが、何しろすべての楽器の科の人の面倒を見なければいけないので大変な仕事です。
オケプロで使われる楽譜の手配や、図書館への取り置き、プローベをする日程の調整、プローベが行われる部屋の手配、毎回の参加者の名前のチェック、欠席者との連絡のやりとり…etc
応募するにはドイツ人であること、という条件はありませんが、この仕事を裁くには超高難易度なドイツ語力が求められるでしょう。
この大変な仕事に対してはきちんとお給料が払われますが、(月に200€ほど。)それでもすべてを裁くのはとても骨折りな仕事だと思います。
先ゼメスターから、私と同じ門下の2つ年上の先輩(ドイツ人)がこの役を引き受けていますが、毎回オケプロの時期になると彼女はいつも忙しそうです。そんな彼女の姿を見ていると、「お疲れ様です。。」という気持ちで一杯になります。
リーダーからドキドキの席順&メンバー発表
プロジェクトのトップ責任者である彼女から私たちオーケストラメンバーにプローベの日程表&メンバー表がメールで送られてくるのは、初回のプローベの約1か月ほど前です。(ゼメスターが始まるまでにはオケの本番の日程、オケプロが始まる次期などの大まかな日程は把握できますが、もっと細かい日程は後々発表されるのです。)
そして送られてきたメールを確認し、自分が今学期どのオケプロに参加するのかをチェックします。(ヴァイオリン科は、第一ヴァイオリンか第二ヴァイオリンかのチェックも。)
このメールを確認するときはいつも緊張します。私は後ろの方のプルト(席)が好き。前の方に行くのは先生との距離が近くなるのでドキドキです。
ところで、もしこれで自分がファーストヴァイオリンに振り分けられていて、更に万が一にも自分の名前が一番上に載っていたら。。?
それは「あなたがコンサートマスター(コンサートミストレス)ですよ」ということを意味しています。ヒィィ!
さらに誰が隣になるかという席順のチェックもします。全く知らない名前の人が自分の隣に書いてあったなら最初のプローベの時に「初めまして」だし、いつもハリのある良い音をブイブイ鳴らせているAさんと一緒となれば、それはそれで緊張します。
実際のプローベが始まって初めて「あ、この人こんな音を出す人なのか」と思うことも。
みんなの譜読みの進捗具合と席順にまつわるお話
オケプロが始まる3週間ほど前には図書館に楽譜が取り置かれるようになるので、各自図書館で楽譜を借りて譜読みを開始します。
オケプロで扱われる曲は交響曲が主ですが、まれに作曲専攻の人が作ったオペラが混じることもあります。そういう時の譜読みは、参考にできる音源がないので普段より譜読みに時間がかかります。
そうでない限りは主に有名な曲ばかり。図書館で楽譜を受け取ったらまずは音源を聴いて曲の雰囲気やテンポを確認します。それから、譜読みにかかるであろう時間もざっくり計算します。
そして実際の曲の譜読みに入るのですが、大体みんな練習してこない(;’∀’)
私が感じた限りでは、テンポもそんなに速くない曲だと、「これくらい初見でいけるっしょ」という感じで練習をあまりせずにプローベに挑む人が8割ほど。
私はというと、完璧なテンポで弾ける!これはイケてる!というほど準備していくわけではないけど、かと言って譜読みをさぼって初回のプローベに参加することもないです。
微妙。。
そして残りの2割の皆さんは、とても真面目に練習します。そういう人は大体前の方に座っているので、オケの先生から急に「そこのパッセージはG線で弾いて」などと言われた時などにサッと新しい指使いを考えて後ろに座るみんなに教えてくれます。ありがたや。
こういう時のために、濃いめの鉛筆はプローベの必需品です。(あと喉が渇くので水筒も。ドイツでは授業中もお水は自由に飲んでオーケーです。)
1プルト目に座るということ
私自身は大抵真ん中から後ろのプルト(席)に座っているのですが、ある時ちょっとしたハプニングがありました。
その時私は第二ヴァイオリンにいたのですが、1プルト目の子が風邪を引いて欠席してしまい。色々あってなんと私が(!)1プルト目に移動せざるを得なくなったのです。
そこで初めて1プルト目から見える景色とその一帯に広がる張りつめた緊張感を肌で感じました。
そこは、指揮者の先生の息遣いまで聞こえてきそうな場所。1プルトに座ったすべての楽器の人とも、よく目が合うこと。
1プルトに座るのと、3プルト/4プルト(2プルトで1列なので、2列目には3プルトと4プルトの人が座ります。)に座るのとでは大きな意識の差があるのだと知りました。
プローベ中、先生から怒られる
ところで、冒頭でお伝えしたように私の通う音大のオケプロは期間中毎日6時間のプローベがあります。(余程の理由がないと休むことは不可能です。)
大体、朝の10時から午後の13時までの午前の部と、夜の18時から21までの午後の部です。
午後の部は朝に弱い人はちょっと辛い時間帯であるけど、午後の部の体力的&精神的負担はそれ以上。
なので、午後20時を切った辺りからの(自分含め)皆の表情はどっと疲れています。
ある日の午後の部のプローベ中のこと。
冷えたホールの真ん中で自分たちが弾く音と先生の指示する声だけが響いて、腕は怠くなって身体は重く、みんなのやる気は下に下がっていく一方。乾燥したホール内では肌もパリパリに干からびていきます。
そんな時、疲れてダルそうなオケメンバーの空気を感じ取ったのか、指揮者の先生がバッとこちらに身体を改めて向き直して
「君たち!!しっかりしてくれ、本番は明後日なんだ。確かに時間も遅くなってきて俺だって疲れてきたけど、君たちは音楽家だろう?本番をこんな状態のまま迎えていいのか?俺が以前指揮してたところは、たったの3日間で一曲を仕上げていたぞ!もっと気合を入れてくれ!」とバッサリ一言。
先生のメガネが先生の顔から流れている汗でキラ~ン✨
そう、なぜ先生が私たちに激をとばしているのかというと、オケプロにはコンサートという本番が必ずくっ付いてくるから。
1.2週間という短い期間、毎日集中してプローベを重ねていくわけですが、みんな自分たちのレッスンの曲を多く抱えていたりで自分の練習に忙しい。
とてもオケの曲まで手が回らない、という言い訳を前面に出しているような人がちらほら出てきだすと、決まって先生からお叱りの言葉をいただくことになるのです。
ところで、ふとした拍子に先生から「そこ、第二ヴァイオリンだけで弾いてくれる?」などと言われるのでプローベ中に油断は禁物です。
短い休憩時間と幸せを運ぶパン
オケプロのプローベ中、午前の部と午後の部それぞれ一回ずつ休憩時間があります。
午前の部は良いとして、午後の部は完全に夜ご飯の時間。プローベが始まる前に何かしら食べておかないと、後になってプローベ中にものすごく後悔することになります。
ぎゅるぎゅる。。
空腹過ぎてお腹がどうにかなりそうな状態でも、大してお腹が空いていなくても休憩時間が20分という事実は変わらず、ですのでお腹が空いて仕方がない人はこの短い休憩時間中に急いで何かを食べるしかありません。
休憩時間が20分とはいえプローベが再度始まる5分前にはもうみんな楽器を抱えて各自の席に戻るので、実質自由に使える時間は15分程度です。
急いでる人にピッタリの食べ物といえば、やっぱりお手軽なパン?
私の場合は、いつも私がお腹を空かせているときにドイツ語コースで一緒にドイツ語を学んだ韓国人のお姉さんが何かしらのパンを半分こしてくれるので、それをありがたくいただいています。えへへ
甘いシナモンロールだったり、チョコの詰まったチョココロネだったり。
集中して1.5時間のプローベをしたに甘いパンを食べた時のあの幸せな気持ち。。
オケプロに甘いおやつorパンは必須のようです。
いよいよ本番!
そうしているうちに時間は過ぎていき、初回のプローベから遅くても2週間後には大学内にある大ホールでの本番を迎えます。
いつも半袖半ズボンの人もこの日はかっこよく。オケメンバーは全員上も下も黒で揃えます。会場が暗くなってお客さんたちもシンと静まり返るとホールのドアが開き、オケメンバーたちがぞろぞろ舞台上へ上がっていきます。
みんな普段より緊張した面持ち。全員着席するとコンマス/コンミスが登場するので、彼女/彼を拍手で迎えます。
そして、指揮者の先生も登場。
普段ラフな格好の先生がバシッと燕尾服を着ているのをみると、「おお~!決まってる!」と思う瞬間。汗を拭うためのハンカチも素敵。
先生が指揮棒をサッと振り下ろして曲が始まったら、そこはもう誰も邪魔できない神聖な空間。最後の音が鳴り終わってお客さんたちから拍手の音が聞こえてくると、「ああ終わったんだなあ」というのを実感します。
何度もカーテンコールが続くのも嬉しい。私、普段はメガネなのですがこういう舞台に上がる時はコンタクトにしていて、そうすると満足げなお客さんたちの顔の表情がより鮮明に見えるのです。
プローベきつかったけど終わってみると今日でこの曲ともお別れか、ちょっと悲しいな。
なんて思いながら楽屋に戻り、帰りの支度を始めます。
みんなが豹変するパーティー会場へ with ビール
大体オケプロは年に3回ほどあるのですが、3回目、つまりゼメスター最後のオケプロはやっぱりちょっと特別。
一緒にこのゼメスターのオケプロを乗り越えたことを祝おう、ということで!
本番が終わったあとは、みんなそれぞれ仲の良い子たちと一緒にお酒を飲んだり踊ったりして本番から解き放された開放感を思いっきり楽しみます。
ザ・ドイツ的なビールが大学内のMensa(メンザ=食堂。食堂といっても天井が何メートルもあって開放感がある。)にどこからともなく大量に運ばれてきてから2時間後には、大学内は「ここは本当に大学なの?」というようなお祭り騒ぎの会場へと早変わり。汗
ビール、ひたすらビール、超ロックなノリの良すぎる音楽、すっかり出来上がっちゃった人たち、お酒っぽい匂い、誰かの叫んでる声 etc.
さっきまでのあの静粛な神聖な本番を共にした仲間はどこへ?という感じで、みんな好きなだけ歌って踊って飲んで騒ぎます。
イエーイ!飲みまくろうぜ~!
↑こんな人がいっぱい。
一回だけこのパーティーに参加したことがあるのですが、会場の雰囲気に圧倒されました。ディスコってこんな感じなのかな~と。
音高時代にもオケの本番はあって打ち上げもする人はしていましたが、私の通っている音大ではどこかへ移動して騒ぐのではなくて、もう大学そのものがパーティー会場に変身しちゃう感じです。
そんなわけなので、翌日にはまだ大学内にお酒の匂いが残っています。誰かが忘れたビールの空き瓶がその辺にごろごろ転がっていたり。
でも、数日経つとまた静かな練習モードの大学に戻ります。
終わりに
日本の音高を卒業した後ドイツの音大に通っている私が思ったのは、本番に対する意識の高さとそこで発揮される集中力は変わらないということ。
オケの授業が始まる5分前には席に着席していること、一回の欠席は重く取られる、など基本的なルールも同じで、音楽が世界共通語だといわれるのも頷けます。
違うところといえば、本番が終わったあとのテンションの高さでしょうか?
それと、ドイツらしく何かにつけてビールが付いてくること。(笑)
未成年なんてほとんどいませんし、世界各国から様々なタイプの人が集まっているインターナショナルな大学内ではお酒の席でもインターナショナル。
日本人の集まりは静かだと思えば、スペインとかイタリアのグループはアツーく盛り上がってるいて。。
でも国は違えど突き詰めたい音楽は同じ。オケプロに参加すると、そのことを毎回感じさせられます。ハードではありますが、学ぶことも多い授業です。