―ぐりとぐらのお話を思い出した。森で大きな大きな卵を見つけてカステラを作ることにした二人の話。カステラはとっても美味しく出来上がって、森に住むいろんな動物たちが集まってその大きなカステラを一緒に楽しんだ。
保育園に通っていたころ、このお話を何度も読み聞かせてもらった。どんな風に焼き上げたらそんなに多くの動物がやってくるのだろう、そのまん丸で黄色いカステラは本当に美味しそうに見えた。
私の想像の中でそのカステラはふわっふわでしっとりとした、甘くて誰もを幸せにする味。私も森の皆に混じってそのカステラを楽しめたらいいのに!一体どんな食感なんだろう、森の中の大きな卵ってどのくらいの大きさなんだろう。読み聞かせてもらうたびにワクワクして聞いていた。
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2日後に実技のレッスンを控え、目下練習中の私はどんよりしていた。予定よりも練習が全然進んでいない。ああ、このままではダメだ。この部分、もっと音程を正しく取れるようにしなければ。あ、首と肩が痛くなってきた。
ふっと休憩したくなってドアを開けると、その時ふわーっと何とも言えない良い匂いが飛び込んできた。シナモンロールが焼き上げられたの?
ああ、なんて幸せな匂い!全てを優しさで満たしてくれるような、甘くてほっとため息が出るような匂いだ。
森の中でどんぐり集めに疲れたリスも、ぐりとぐらの作ったカステラを食べてその疲れが吹き飛んだかもしれない、と思った。体の中にお菓子の幸せが優しく広がって、美味しいねって笑顔が広がる味。
良いなあ、わたしの保育園の頃の夢はお菓子屋さんか風船屋さんになることだった。
「いらっしゃいませ、今日のおすすめはフルーツタルトとベリーのチーズケーキですよ。」「わあ、美味しそう!たくさん種類があるなあ」・・・・
そんなこと考えながら、いただいたシナモンロールを口に頬張った。シナモンの香りが紅茶とよく合う。
お姉ちゃん、シナモンロールありがとう。